啄木の76日間が、街に残したもの

26年という短くも波乱の人生の中で、たくさんの歌を人々の心に残した歌人・石川啄木。彼の歌碑や資料がこの釧路にいくつも存在しています。啄木の歩みと釧路との縁をたどってみることにしましょう。

・【6月～10月】石川啄木ゆかりの地巡り～石川啄木７６日間の足跡～：https://ja.kushiro-lakeakan.com/things_to_do/8291/
・米町公園：https://ja.kushiro-lakeakan.com/things_to_do/3703/

神童・啄木、海を渡って北海道へ

　啄木は明治19年、岩手県のお寺の長男として生まれました。小さい頃から成績が良く、小学校を首席で卒業し｢神童｣と呼ばれたことも。ちなみに宮沢賢治もこの学校出身で、啄木の後輩にあたります。中学時代に金田一京助や文学誌に出会ったことで歌に目覚め、才能が開花。16歳で上京し、文学を生業にしようと一度は決意するものの、19歳で結婚し妻や両親を養うために小学校の代用教員になります。やがて、新天地で心機一転を図ろうと北海道へ単身で乗り込み、函館や札幌を転々とした後、ついにこの釧路へとやってきました。

・港文館：https://ja.kushiro-lakeakan.com/things_to_do/3693/

旧釧路新聞社と港文館

　函館から北海道に入り、各地を移動した後に最後に訪れたのがこの釧路。
釧路新聞社には明治41年1月22日から同年4月5日まで在籍しておりましたが、実動日数は49日間でした。しかし、この短い期間に100余りの記事を書き残しております。その一方、｢しらしらと 氷かがやき 千鳥なく 釧路の海の冬の月かな｣｢さいはての 駅に下り立ち雪あかり さびしき町にあゆみいりにき｣など釧路にまつわる多くの歌を残しました。
　啄木が釧路新聞社の三面主任（実質は編集長格）となってから、紙面を改革し、時には１ページを一人で書いておりました。そんな啄木は日景編集長と考え方が徐々に異なってゆき、仕事での人間関係のもつれから東京への思いを再度募らせ、啄木は76日間という短い滞在の末にこの地を後にしました。
　さて、当時の釧路新聞社は、釧路川左岸の埋め立て地に建設されておりました。啄木が釧路に来てから新築落成式を行っております。昭和１７年以降は北海道新聞釧路支局として使用されましたが、昭和39年1月に解体されました。
　平成5年6月、旧釧路新聞社社屋を復元しました「港文館」の１階には喫茶室や談話室があります。2階は、釧路新聞社の記者だった石川啄木に関する資料などが展示されております。ごゆっくりご覧ください。

・港文館：https://ja.kushiro-lakeakan.com/things_to_do/3693/

実は結構、自由奔放!?

　啄木の代表的な歌として｢ふるさとの 訛なつかし 停車場の 人ごみの中に そを聴きにゆく｣｢はたらけどはたらけど猶 わが生活楽にならざり ぢっと手を見る｣などがあります。静けさや寂しさの中に情景が浮かんでくるような哀愁あふれるものが多く見られます。
　また、26歳という若さで病気のためにこの世を去ったことから、勤勉で孤独な人生を歩んだ人のように思われがちです。
　しかし、友人らに多額の借金をしながら盛んに芸者遊びをしたり、仕事を途中で投げ出したり、大恩人に絶縁を言い渡したりと、実はなかなかに自由奔放な性格であったようです。周囲の人間からみるとちょっと迷惑な存在ですが、才能あふれる啄木の人間臭さを垣間見ることができます。

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啄木の下宿跡

　石川啄木は明治４１年１月２３日から同年４月１日までの７０日間、関下宿で暮らしました。当時の関下宿は高等下宿で、下宿料が１４円５０銭で、布団代が別に２円５０銭支払っております。
　鞄一つで釧路に来た啄木は、この高等下宿の２階８畳間に一人で暮らしておりますが、時折同僚や芸妓、看護婦らも遊びに来ております。日記によりますと３月１４日夜、９人で「歌留多会」を楽しんでおります。
　私生活の中心になっております関下宿についての調査研究は進んでおりますが、未だに女将の関サワ（戸籍名）の写真が発見されておりません。また、血族の方も発見されておりません。啄木の「借金メモ」によりますと、この女将に５０円の借金をしております。
　この地に建っていた建物は昭和２０年７月中旬痛みがひどく取り壊されました。
　
当時の住所は　
　釧路町大字洲崎町１丁目３２番地

啄木遊興の地

　石川啄木が高級料亭でお酒を飲むのは釧路が初めてではないだろうか。
　妻子を小樽に残して単身で釧路に来た啄木は、毎夜のごとく料亭に足を運び、芸妓らと酒を酌み交わしております。日記に書かれております料亭への回数は３０回にもなっております。もちろん、その全てが私的な遊びではありませんが、多くは個人払いとなっております。そのため給料の大半は遊興費として支払われておりました。それだけでは支払いきれずに、「借金メモ」に料亭関係だけでも４５円の借金が書かれております。
　当時この一帯には料亭が建ち並んでおりました。その中でも「喜望楼」「鹿嶋屋」「鶤寅」は別格になっております。近くには武富本家があり、敷地内の坂道は武富私道（武富小路）と言われ、歓楽街となっておりました。啄木はこの武富私道を何度となく歩いております。粋界を書いた「紅筆だより」にも武富私道が登場しております。

本行寺と石川啄木

　石川啄木が本行寺に来たのは、たった1回ではないだろうか。
　明治41年3月3日、「本行寺の加留多会へ衣川（佐藤）と二人で行って見たが・・・」と日記に書き残しております。
　啄木が寺の娘、小菅まさゑと知り合ったのは2月11日のことで、釧路座で慈善演劇を観ている時、小菅まさゑの手を握ってしまったことから始まっております。その後、二人の間には恋は芽生えませんでした。
　当時の本堂は寺院内の「石川啄木資料館」に20分の1の復元模型で展示されております。大正9年10月新本堂庫裡の計画に伴い、啄木が歌留多を楽しんだ本堂は解体されております。現在の本堂は大正15年に落成しております。
　山門の横に啄木歌碑が建っており、碑面には梅川操を詠んだ歌が刻まれております。菅原弌也第五世住職はこの歌が大好きだったと聞いております。

米町公園の歌碑

　知人岬の高台に啄木の歌碑が建立されたのは、昭和9年12月26日のことでした。
　当時、なかなか歌碑を建てる場所が決まらなかったのですが、同年6月13日、朝日新聞の招きで釧路に来られた作家・林芙美子氏に相談したところ、この地が良いと言われて決まったそうです。
　この歌碑が全国で6番目に建立されたことは周知の通りですが、戦前最後の啄木歌碑であることは余り知られておりません。
　また、短歌の中に詠まれております「千鳥」が話題になっております。啄木研究家の間でも釧路には千鳥が居た、居なかったと二分しております。ところが、地元の啄木研究家は啄木が「釧路詞壇」（3月19日）に千鳥の歌を発表した日に、地元の歌人がやはり千鳥を短歌に詠んでおりますので、千鳥が居たのではないかと言っております。
　真冬の寒い夜、この地に立ちますと、この名歌の素晴らしさが分かってきます。

啄木ゆめ公園

　南大通5丁目に公園が完成した時、愛称名が公募されております。300点近くの応募の中から「啄木ゆめ公園」が選ばれました。
　命名者の話では、この地は関下宿から近く、高台の上には料亭もあり、良くここら一帯を歩いたのではないかと言っております。啄木は常に東京へ行って、もう一度文学活動をしようと夢を持っておりました。
　当時の真砂大通は一番賑わった通りで、たくさんの商店が軒を並べておりました。近くには大きな会津屋旅館、共立笠井病院、根室銀行釧路支店、釧路郵便局、釧路新聞社などが建っており、人口の多くは橋南一帯に住んでおりました。
　明治43年ころ高台（浦見）から写した写真には、町並が鮮明に写し出されております。また、釧路港の築港が始まったばかりの広々とした海や、川幅が広い釧路川も写っております。この公園から釧路川までの距離はほんのわずかしかありませんでした。

啄木の軌跡が、この町のあちこちに

啄木が釧路に残した歌を広く語り継ごうと、この地には啄木にまつわるたくさんの史跡が現存しています。拠点としていた釧路駅周辺から米町地区にかけては25基もの歌碑があり、｢石川啄木文学コース｣として約2時間半で巡ることができます。勤めていた旧釧路新聞社を復元した資料館｢港文館｣や、啄木の貴重な資料が展示されている釧路最古の木造民家｢米町ふるさと館｣も、釧路と啄木の関係性を知るためには欠かせないスポット。また、啄木が釧路にやって来た1月21日に合わせ｢啄木・雪あかりの町・くしろ｣というイベントが開催され、幣舞橋から南大通りにかけてを美しいアイスキャンドルが照らします。米町は釧路市発祥の地で古き良き町並みが残されているエリアなので、彼の足跡を辿りつつノスタルジックな一日を過ごしてみるのはいかがでしょうか。


・港文館：https://ja.kushiro-lakeakan.com/things_to_do/3693/
・米町ふるさと館：https://ja.kushiro-lakeakan.com/things_to_do/2860/
・啄木・雪あかりの町・くしろ：https://ja.kushiro-lakeakan.com/things_to_do/1843/
・石川啄木フットパス～76日間の足跡をたどる～：https://ja.kushiro-lakeakan.com/things_to_do/8291/
・啄木歌碑・記念碑マップ：https://ja.kushiro-lakeakan.com/kushiroakanwp/wp-content/uploads/dede824d687d78f2b1022651d709fb67.pdf